優しさと柔らかさのある和空間

 京都市東山区祇園町にある祇園甲部歌舞練場。現在、春の訪れとともに「都をどり」が開催され、石畳が美しい花見小路通は連日、多くの観光客でにぎわいをみせている。先日、そんな歌舞練場の向かいに位置する「SAYURA VINS FINS」という、一軒のお茶屋を改装したワインバーを訪れる機会に恵まれた。

 千本格子の小さな玄関戸をくぐり一歩店内に足を踏み入れると、丸みを帯びたじゅらく壁に小さな一輪挿しがライトアップされた広がりのあるロビー空間が広がっている。奥のカウンター席には、長さ6.3メートルもあるブビンガの一枚板の無垢(むく)カウンターが、メインカウンターとして設置され、座り心地の良い10席の椅子とともに落ち着きのあるバー空間をつくりあげている。ブビンガは、別名アフリカンローズウッドとも呼ばれる耐久性に優れた広葉樹であり、カリンのような華やかな色合いと、独特の美しい木目が特徴的な木材である。

 床材にはナラ材が、天井材にはタモ材がそれぞれ使用され、木が持つぬくもりを肌で感じることのできる柔和な空間構成となっている。カウンターの奥には絵画のように切り取られた坪庭の風景が幻想的に浮かび上がっている。さらに、アイキャッチとなる正面奥の壁には、ライトアップされた坪庭を取り囲むように、抗火石(軽石の一種)が、リズム良く配置され、全体の雰囲気がうまく演出されている。

 数ある町家再生事例の中で、特徴的な「SAYURA VINS FINS」のモダン和風空間。角を取り、丸みを帯びた柔らかなかたちを「和」にとりこみながら、優しさとぬくもりのあるお茶屋の改装事例となっている。これからのモダン和風デザインにおいて、新しい可能性を感じることのできた素敵(すてき)なひとときであった。