あぶり餅とまいまい井戸

 京都市北区紫野にある今宮神社。平安遷都以前より、この地には古くから社があり、現在も技芸上達を願う人々の崇敬があつく、織物の祖神としても信仰を集めている。神社の東参道沿いにあぶり餅「一文字屋和輔(一和)」がある。一口サイズの餅を炭火であぶり、独特の甘い白みそたれをかけた「あぶり餅」は、今宮神社の名物にもなっている。
 
 「一和」の創業は、聞けば、平安遷都直後の長保2(1000)年というから驚きである。以来、1012年もの長きにわたり、参道沿いのこの地で茶屋を営み続けている。現在、茶店として使用されている建物は一番古いもので約300年前の元禄年間の建造であり、一番新しい建物でも大正元(1912)年の建造である。そんな、「一和」の建物の床下には、平安時代の創建当初より、代々今も大切に使用され続けている「井戸」がある。
 
 螺旋(らせん)状の階段を15段、地下に下りていくと井戸の水面にたどり着く。そこから水をくみ上げる形式の井戸は「まいまい井戸」とよばれ、古来より伝わる井戸のスタイルである。螺旋状の階段がカタツムリ(まいまい)の殻に似ていることが、その語源となっている。私たちになじみの深い「つるべ」形式の井戸は江戸時代に考案されたものであり、その歴史は比較的新しい。
 
 ひんやりとした「まいまい」を下りていくと、さまざまな地層断面を目にすることができる。京都ではこの他に、山科・随心院内に小野小町が朝夕の化粧に使っていたと言い伝えの残る井戸が「まいまい井戸」がある。
 
 井戸の清らかな水とともに1000年以上の歴史を重ねてきたあぶり餅「一文字屋和輔(一和)」。京都の奥深さを感じた、ひとときであった。