現代と融合した和空間

 先日、京都嵐山・保津川峡谷にある和風旅館「星のや 京都」を訪れる機会に恵まれた。
 紅葉の名所として知られていた明治期創業の老舗旅館「嵐峡館」をリニューアルし09年12月に開業した、京都の良さを肌で感じることのできる宿泊施設である。四季折々の嵐峡の風景に包まれたこの地は、古くは、大堰川保津川)・高瀬川を開削した、角倉了以のライブラリーがあった場所であるともいわれている。
 「水辺の私邸」をコンセプトに丸2年をかけて改修が手掛けられた築100年の木造建築は、日ごろ、私たちが忘れかけている伝統的な日本の美しさを思い出させるぬくもりのあるたたずまいとなっている。「嵐峡館」の外観はそのまま継承しながら、全25室のゲストルームはすべて違う間取りで計画され、それぞれの部屋から互いのプライバシーを保ちながら川の流れと緑を眺めることのできるように趣向が凝らされている。
 自然の恵みに囲まれながら、にぎやかな「水の庭」と静かな「奥の庭」を配して再形成されるその全体のイメージは、日本本来の美しさのなかに現代の快適性を兼ね備えた"現代と融合した和"ともいうべき印象を持っている。
 施設の案内文にはこう記されている。「もっと日本らしさを大切にしながら近代化するルートを歩むことができたなら、私たちの生活や周りの風景はどうなっていたであろうか」。星のやが思い描く「もう一つの日本」は、その土地独自の価値観、自然、そして文化を守りながら、時代に合わせた近代化をとげてきた時の空想の姿なのです、と。
 明治以降、急速に欧米の文化を取り入れてきた現代の日本にあって、もし、ゆるやかに欧米の文化と日本文化が融合していたらどうなっていたのであろうか?
 置き去りにされてきた、日本の伝統価値を再考することのできた良い機会であった。