夢を与える能舞台

 上京区にある「河村能舞台」。この舞台のある烏丸上立売界隈(かいわい)は、室町幕府の三代将軍足利義満が造った「花の御所」の北端にあたるといわれている。現在の烏丸通今出川通上立売通室町通に囲まれた東西1町(120メートル)・南北2町(240メートル)にもおよぶ広大な敷地にあった「花の御所」。足利家の邸宅の他にも、寝殿や、鴨川から水を引き四季折々の花木を配置した美しい庭園が整備されていた。

 義満が、観阿弥世阿弥を支援して以来、600年以上も伝え続けられている伝統芸能「能」。現在のように屋内に能舞台が造られるようになったのは、明治維新後のことであり、それ以前は能は屋外で演じられていた。現在の能舞台に屋根があるのはその名残であるといえる。

 水に見立てた白州と呼ばれる、白い砂利の上に浮かぶように設置された檜(ヒノキ)舞台。手前に写る目付柱の他にワキ柱・シテ柱・笛柱の4本の柱で巨大な屋根は支えられている。正面奥の鏡板には「老松」が描かれ、その右側の切り戸口には「若竹」が描かれている。吉祥の象徴でもある「松竹梅」になぞらえられているのであるが、「梅」は演技者である能楽師自身の「華」がその役割を務めているといわれている。

 簡潔で必要以上の装飾がなく、幕のない能舞台は能独自の「夢幻」の世界を演出する最高のステージである。詩・劇・舞・音楽・美術などさまざまな要素が、演者の動きと一体となって観客の感動を呼び起こす。時代を超えて引き継がれ、人々に夢を与え続けてきた能舞台。私たちの「建築空間」にも学ぶべきところは多いと思うのである。