鞍馬の自然と向き合う住宅

 牛若丸と天狗(てんぐ)の伝説が残る京都市左京区・鞍馬。先日、鞍馬本町にある一軒の住宅を改装する機会に恵まれた。鞍馬街道沿いにあるその住宅は、木の芽煮の伝統の味を現在に伝える「くらま辻井」という屋号で、古くより商いを営んでいる建物でもある。隣には重要文化財である「瀧澤家住宅」があり、山深く豊かな鞍馬の自然に取り囲まれた環境にあって美しい街道の町並みを形成している住宅でもあった。

 そのような自然豊かな周辺環境にあって、あたらしく住環境を考えるにおいては、その自然環境を室内空間にとりいれることはもちろんのこと、極力、自然素材を用いることにより、周辺環境との調和を図る必要があると考える。また、厳しい鞍馬の冬の寒さとも向き合いながら、快適に暮らすことのできる温熱環境の構築も、欠かすことのできないテーマであった。自然と共に快適に過ごす。そんなぬくもりのある室内空間への改修プロジェクトが進められた。

 床暖房をとりいれた床材には、サクラの一種であるブラックチェリー材天然木三層フローリングを使用。壁材には、調湿・消臭機能に優れ、100%自然素材である火山灰を使用した”そとん壁”。天井材には、長さ6メートルの米松一枚板を使用した。ガラスは全て断熱ペアガラス、LED照明は柔らかみのある電球色を採用している。結果、自然を肌で感じることのできる、ぬくもりのある上質な室内空間に仕上がった。

 今後、家具にはシンプルで暖かみのある北欧家具をコーディネートする予定である。厳しい鞍馬の自然と身近に向き合いながら、快適な住環境を構築することのできた印象的な冬のプロジェクトであった。