街路に映す和の潜在力

 京都東山五条大橋のたもとに位置する「京居酒屋 Sherry」。清水寺にもほど近く、交通量の多い五条通国道1号線)にも面した、幹線道路沿いのロケーションに計画された、京居酒屋のプロジェクトである。

 和傘の伝統技術を生かしながら生産された、大きな提灯(ちょうちん)をアクセントに、現代和を感じさせる上品なプロポーションを正面デザインに計画。ガラス面による開口部を大きくとることにより街路からの視認性を高めるとともに、格子を介して店舗全体を映し出し、店内の雰囲気も感じることのできる空間として設計した。

 店舗コンセプトを「古今」「色」「京」「和」「魚」とし、伝統的な手法である、坪庭・格子・畳といった「和」のエレメントを現代的手法によって展開することにより、「古今」のイメージを全体で強く意識した和モダン空間に仕上げている。

 店舗内部は互いに空間としてはつながりながら、各客席エリアのプライバシーが保たれるよう特に配慮した計画とし、細目(ささめ)格子などの京都の伝統的な技術を使用 しながら、快適かつ開放的な、客席空間を実現している。

 使用した和紙ペンダント照明は、07年度グッドデザイン賞中小企業庁長官特別賞を受賞した心温まるランプシェード。伝統技術をうまく生かしながら現代風に和傘をアレンジした、手漉(す)き和紙の作り出す灯(あか)りと影は懐かしくもあり、新しい。ルーツを大切にしながら、現代に伝統の技を織り込み、変化を重ねる。柔軟な発想に触れるとともに、「和」の持つ潜在力と遭遇したプロジェクトでもあった。