"Cafe"と"旅館"の素敵な関係性

 先日、京都市中京区三条御幸町下ルにある「cinq cafe(サンクカフェ)」を訪れる機会に恵まれた。フランス語で「五つのカフェ」を意味するこのモダンなカフェの2階には、同じように「五つの可愛い部屋」を意味する「cinq petit chambre(サンクプチシャンブル)」という5室からなる和モダンの町屋旅館も併設されている。

 もとは120年間続く老舗旅館だった建物を、スタッフ自らがセルフリノベーションを行い、居心地のよいカフェ旅館として生まれ変わらせた再生事例である。旅館の外観には当時からある「田中屋旅館」の看板が今でも大切に保存されながら使用されている。

 このカフェ旅館は「京都空間創生術35」でも紹介した、西陣「les trois maisons(レトワメゾン)」の姉妹店でもあり、京町家の梁(はり)をうまく店内デザインに取り入れながら、居心地のいい時間と空間がここでも見事に構成されている。全45席のカフェ空間は、それぞれに快適に楽しく過ごすための工夫が随所になされ、USED家具と座敷が醸し出す雰囲気は、さながら「街の中のリビングルーム」ともいうべきスペースを創り上げている。一方、呼応するように旅館の各部屋は、室内をほどよく照らす和紙の照明を中心に和モダンデザインでシンプルにまとめられ、光と陰の美しい調和によって、心落ち着く空間が自然に演出されている。

 このように、カフェ発信の旅館スタイルを構築することは京都においては意外に新しい試みであり、伝統と現代がゆるやかに年月を掛けて融合し、醸成されてきたともいうべき深みを感じることのできる関係性がそこには存在している。全てを新しくするのではなく、その思いを後世につなぎ伝える。そんな、京町家改装事例の好例を感じたひとときであった。