重要文化財 瀧澤家住宅

 義経伝説でも有名な京都市左京区「鞍馬」。古来より、鞍馬は丹波や若狭と京都との間の物資の中継点としても発展を遂げ、街道沿いには、山間の良質な薪炭などを扱う問屋等も軒を連ねていた。付近一帯には市中と変わらない形式の町家が多く立ち並び、情緒ある町並みが今もなお続いている。
 
 先日、叡山電鉄鞍馬駅から鞍馬街道を500メートルほど北上したところにある、「瀧澤家住宅」を訪れる機会に恵まれた。「瀧澤家」は旧炭問屋と伝えられている町家であり、国の重要文化財に指定されている。祈祷(きとう)札には、「寶暦十庚辰四月廿五日」と記され、今から約250年前の宝暦10(1760)年に建築されたことが知られている。現在、京都市内にある重要文化財である町家は他に下京区にある「角屋」と「杉本家住宅」、そして中京区にある「小川家住宅(二條陣屋)」の3件しか指定されていない。
 
 建物の両妻に卯建(うだつ)をかまえる格式のある外観は、江戸時代後期における標準的な京町家の様式を現代に伝える貴重な文化財となっている。間口4間半のうち西側2間を通り土間とし、その東側に一列3室の座敷が計画されている。通り土間形式である京町家の例としては現在知られる京都市内最古のものであるといわれている。2階部分には、通りに面して2室の座敷と、屋根裏に薪炭置き場が計画されており、辷(すべ)り戸天井を引き開けて、箱階段で上階に上る構造となっている点は興味深い。
 
 洛中の町家のほとんどが、過去の大火によって失われた中、近世京町家の典型事例として鞍馬の山中に「瀧澤家住宅」は残り続け、私たちにその姿を伝え続けているのである。