住まいと庭のいい関係

 先日、上京区室町丸太町にある、京町家の改修工事を行った。昭和初期に邸宅として建てられたであろうこの京町家は、以前より企業の研修施設として長年に渡り大切に使用され続けていた。約270坪の敷地に建てられた、木造2階建ての母屋はちょうど中庭を中心に「ロ」の字型の平面となるように計画され、それぞれの座敷が配置されている。さらに母屋の周囲をぐるりと取り囲むように、趣の異なる4つの庭が計画され、四季折々の情景をそれぞれの座敷から眺めることのできるしつらえとなっている。

 京町家を改装するたびに感じることであるが、私たちの先人は、文明社会に暮らす現代人と比べて、はるかに「住まい」と「庭」の関係性を大切に考えていたと思うのである。現代のように空調設備や蛍光灯も無かった時代、自然との関わりを大切に考えることによって、より快適で人間らしい暮らしを実現しようと様々な工夫を重ねてきたのである。
京町家の坪庭に代表されるように、どんなに小さな敷地であっても、自然の光をふんだんに効率よく採り入れながら四季折々の風を肌で感じ、なおかつ視覚的にも楽しめる、そんな住まいのあり方をとても大事にしていたのである。

 それに比べて、現代の住まいと庭の関係はどうであろうか。敷地一杯に建物を建てることを優先するあまり、庭の持つべき本来の大切さを忘れているのではないだろうか。ともすれば、後回しになりがちな外部空間との関係性。技術の進歩により高断熱・高気密といった性能のいい住宅が建設されるようになった一方で、自然を感じながら豊かに暮らすといった、私たちが大切に考えてきた住まい本来のあり方というものを、もう一度見直してみることが必要なのではないだろうか。