生きた町家西陣冨田屋

 京都市上京区大宮通一条上ルにある「冨田屋(とんだや)」。間口8間の店構えを有する表屋造りの京町家は、平成11(1999)年には文化庁より国の有形登録文化財の指定を受けている。平成19(07)年には京都市からも重要景観建造物の指定も受け、現在は「西陣暮らしの美術館 冨田屋」として、一般公開されている。
 江戸時代より、伏見で代々両替商を営んでいた「冨田屋」は、慶応4(1868)年の鳥羽伏見の戦いで戦火に遭い、西陣に移り、西陣産地問屋として再生を図ることとなる。十代目田中藤兵衛が、現商家を建てたのは、明治18(1885)年のことである。以来、約130年もの長きにわたり、明治時代の呉服問屋は、十三代目田中峰子さんにまで大切に使用され続けている。
 敷地内には、表屋・主屋・はなれの3棟の建物があり、それぞれ、商空間・住空間・応接空間と明確な区分がなされ、坪庭・座敷庭をはじめとする違った表情の六つの庭園によりその構成はよく考えられたものとなっている。応接空間である"はなれ"においては、明治中期においては珍しい洋風応接室の他に、茶室や能座敷も整備され、古き良き時代の暮らしぶりを肌で感じることのできる町家の造りがそのまま残されている。また、館内では着付けやお茶席といったさまざまな伝統文化体験ができるプログラムが数多く用意されている。
 単なる町家の見学施設が数多くある中、昔ながらの歴史や暮らし・風習を今に伝える「生きた町家」がここにはある。日々、便利に進化し続ける現代ネット社会において、今一度、私たちが大切に受け継いできた先人の精神を、学び直す必要があると思うのである。