大切にされ続ける京都の「和」

 先日、京都市中京区二条城前にある「京都国際ホテル」を訪れた。昨年2月に新しく改装されたコーナースイートルームは、新しい「和」のイメージを意識した柔らかでぬくもりのある空間に生まれ変わっている。和紙や格子・畳といった「和」の素材をうまく現代のインテリアに取り入れながら、ホテルの客室においては珍しく、靴を脱いでくつろぐことのできるスタイルとなっている。設計監修は、東京大学大学院工学系研究科の隈研吾教授。自然素材を生かした建築や、格子を多用したデザインが特徴的な作品を手掛ける、現代の建築家である。
 二条城東側、「旧福井藩邸屋敷跡」に「京都国際ホテル」が開業したのは、今から約50年前、昭和36(1961)年の8月16日。京都の夏の風物詩、五山の送り火があった日のことである。全274室、10階建ての近代的なそのデザインは、近代和風の巨匠建築家・吉村順三(1908-1997)による設計である。京町家が持つその造形美をダイナミックに再構築しながらも水平線を強調したその外観デザインは、当時において新しい「和」の可能性を予見させるものであった。高度成長期の京都にあって、美しい町並みがコンクリートによって近代化されていった60年代。そのような時代にあっても、京都の建物が持つ人間的な尺度や伝統的な美しさを大切にしながら、近代建築のなかに再生していこうという吉村順三の設計姿勢は、今も色あせることはない。
 時代は流れても、大切にされつづける、京都の「和」。50年を経た今も、私たち建築家が大切にしなければなければならないことは、不変であり続けると感じたひとときであった。