五龍閣にみる和洋折衷の美

 先日、東山区清水坂の途中、石畳を奥に入ったところにある「五龍閣」=大正10(1921)年竣工=を訪れた。和洋折衷様式が美しいこの建物は、京都帝国大学建築学科の創設者でもある武田五一の設計による。武田が、建築学科設置と共に京大教授の発令を受けたのは大正9(1920)年9月の事であるから、京大着任後間もない時期の竣工であったということになる。

 清水焼の窯元を、碍子(ガイシ)や義歯の製造により国際的な事業へと発展させた松風家三代目、松風嘉定(しようふうかじょう)。松風はこの地にあった旧来の家屋を大正元(1912)年に取り壊し、和館を建設した。その後隣接して建てた迎賓館としての洋館がこの「五龍閣」である。

 洋館のように見える外観には和洋折衷の様式がうまく取り入れられており、桟瓦葺の屋根のうえに鴟尾(しび)を飾り、窓は西洋古典の装飾で飾られながらも、窓回りや付け柱を浅く仕上げることにより、全体として和風建築の持つ落ち着いた上品な雰囲気を創り上げている。また、内部空間にもその手法は取り入れられ、玄関に靴脱ぎ石を置き、靴を脱いで上がるスタイルの採用や、洋室に和風デザインである折り上げ格天井を取り入れるなど、随所に和風建築の技法を融合させたデザインが施されている。最上階の4階には、風見鶏の付いた二畳ほどの望楼があり、東山の景色や市内が一望できる仕掛けにもなっている。

 現在は、国の登録文化財にも指定されており、「夢二カフェ五龍閣」として大切に使用されている。大正浪漫を代表する画家、竹久夢二ともゆかりが深いこのカフェでは、昨年8月6〜16日に「竹久夢二楽譜展」も開催された。大正ロマンを肌で感じながら過ごした、とときであった。