宝石箱のような京町家

 先日、一軒の京町家を再生する機会に恵まれた。京都市下京区堀川五条下ル東入にある「ふたえ洋菓子店」。京都のよき伝統の雰囲気をそのままに、洋菓子を通じてお届けする、来月オープン予定のケーキショップである。

 間口2間半、奥行き3間半、9坪ほどの小さな敷地に建てられた、小さな京町家であったが、幾度かの度重なる場当たり的な改修により、もとの京町家の風情は失われてしまっていた。また、長年に渡る使用によって老朽化が進み、特に1階床下部分の腐食により建物自体も傾いてしまっているような状況であった。

 今回の京町家再生においては、先行してジャッキアップによる水平補正を行い、その後、腐食部分の取り替えや、耐震補強を行っていくという方法にて改修をおこなった。その上で、失ってしまった京町家の風情を現代的に再定義し、洋菓子店の雰囲気にふさわしい外観デザインとインテリア計画で全体のコーディネートを行った。

 正面には小さな坪庭を配置し、しっくいをアクセントにレトロタイル・レトロ照明で装飾を施した。外周にはトクサをあしらい、全体的に京町家の風情を感じさせると共に、鋳鉄製のサインと小さなのれんで和洋の折衷美を構成した。内部空間においては、スポットライトと細目格子にて店舗空間を効果的にデザインし、ショーケースに並べられる、いろとりどりのケーキを最大限魅力的に輝かせるための演出をおこなった。それはあたかも、小さな宝石箱にきらきらと宝石が輝くようなイメージである。

 「かわいい洋菓子」と「ちいさな京町家」だからこそできた、「ふたえ洋菓子店」。京町家のもつ新しい可能性を発見することのできた、意義のある改修プロジェクトであった。