伝統京町家をホットスポットに

 先日、京都市下京区仏光寺通柳馬場にある四軒長屋の一画を改装する機会に恵まれた。大正時代に建てられたであろうこの長屋は、建設当時の趣を残す手入れの良く行き届いた京町家であった。この京町家と今回新しくご縁のあったクライアントは、京町家の風情を生かしながらも、最新のテクノロジーを取り入れた居心地のいいCAFE空間への改装を希望されていた。

 幼いころ、テレビでみた「ウルトラセブン」という番組の中に、こんなワンシーンがあったのを思い出す。ウルトラ警備隊が装備する「ビデオシーバー」とよばれる腕時計形のテレビ電話があった。それぞれのモニターには鮮明な映像が映し出され、腕時計を介して隊員同士が連絡を取り合っていたのである。あれから約40年。当時は、夢のように思えた未来の仮想技術も今や現実のものになりつつある。

 京町家を改装したCAFE「esrille(エスリル)」の店舗空間。座敷の天井や、既存建具のぬくもりをうまく活用しながら、落ちつきのある空間への再生を心がけた。座椅子には「カリモク60」と呼ばれる60年代に販売されたデザイン家具が使用され、レトロでモダンな雰囲気作りに一役かっている。

 そんな伝統的な京町家の内部には、現在の最新技術である「WI−FI(ワイファイ)」と呼ばれる無線コンピューターネットワークが完備され、店内の至る所で、インターネットや通信ゲーム等が使用できる環境(ホットスポット)が整備されている。また、スポットライトには全てLED(発光ダイオード)が使用され環境にも配慮した、先進的な取り組み事例となっている。

 伝統町家に最新技術。先人と現代人の知恵の融合による、新しい取り組みは今後の京町家再生のよき参考事例となることであろう。