昭和の名庭 余香苑

 「妙心寺 退蔵院」内にある、庭園「余香苑」。前号の「京都空間創生術143」でご紹介した、枯山水庭園「元信の庭」と並び、退蔵院を代表するもうひとつの庭園である。

 今年のミシュラングリーンガイドジャポンでも、二つ星を獲得したこの庭園は、昭和の小堀遠州ともいわれる造園家・中根金作氏による設計で昭和38(1963)年に着工し3年の年月を費やして完成された。もともとは方丈庭園裏の背景となっていた竹林が、寿命を迎え、枯死してしまったため、あたらしく庭園として整備されたものである。

 約790坪もある庭園の敷地に足を踏み入れると、左右にそれぞれ「陽の庭」「陰の庭」と名付けられた枯山水の庭があらわれる。さらに、水琴窟のあるつくばいの脇を進み、坂を奥へ下りていくと藤棚付近へたどり着く。ふと立ち止まり、振り返るとそこには優雅で彩り鮮やかな素晴らしい風景が一面に広がっている。敷地の高低差と奥行きを巧みに利用しながら、随所に工夫の凝らされたその風景は、まさに「昭和の名庭」の名にふさわしい。

 サクラとツツジの大刈込みの間から三段落ちの滝が流れ落ち、深山の大滝を見るような風情が演出され、特に滝組石には方丈の枯滝石組の伝統的な手法が盛り込まれている。また、四季を通じて、美しい風景を鑑賞できるよう、サクラやモミジ、キンモクセイが植えられており、伝統的な造園手法を基調としながらも、江戸時代までの禅宗の寺院には見られなかった軽妙さが演出されている。

 大本山妙心寺塔頭として600年の時を経て人々に愛され続ける退蔵院。花園の地で改めて京都の奥深さに触れることのできたひとときであった。