守り続ける伝統と美しさ

 先日、京都市中京区六角通新町西入にあり、国登録有形文化財でもある「久保家住宅」を訪れた。現在は、京料理店「懐石 瓢樹(ひょうき)」として、この邸宅は大切に使用されている。六角通に面するこの建物は、明治期に日本画会で活躍した今尾景年(いまおけいねん)の自宅として、大正3(1914)年に建築された。

 京都友禅染の家に生まれた今尾景年は、友禅染の下絵描きより画を始め、浮世絵の技法を学んだ後、確かな写生にもとづく優美で流麗な花鳥画を得意とする画家であった。その精緻で写実的な作風は海外でも高い評価を得、明治33(1900)年のパリ万博で銀牌(ぱい)、明治37(1904)年のセントルイス万博で金牌を受賞した明治美術界を代表する巨匠でもあった。

 約400坪の敷地の中央部に建てられた母屋は、桁行(けたゆき)10間・梁間(はりま)6間の規模を持ち、東側に土間、西側に10畳と15畳の続き座敷が計画されている。更にその南側には10畳の応接室を持つ玄関棟があり、互いを渡り廊下でつなげながら、巧みに庭園を配置することにより、自然を肌で感じることのできる今尾景年らしい、品格のある近代和風住宅に仕上げられている。皇室御用林より切り出した良材による、総栂(つが)造りの邸宅は、100年近い歳月を経た今もなお、その本物の輝きを増しているようにすら感じられる。

 「瓢樹」の3代目ご主人、西村誠氏はこう語る。「あくまで建物が第一、料理は脇役。由緒ある文化財の名を汚さぬように、本物の輝きには本物の料理を出さないといけないと考えています。」と。

 時は流れても、伝え続けられる伝統の美しさ。時代によって変わり続ける、京の素材を使いながら、変わらぬ味を守り続ける「瓢樹」の看板とともに、今尾景年のかつての邸宅も守り続けられると感じたひとときであった。