空を感じる京町家

 以前、中京蛸薬師にある1軒の京町家を改装する機会に恵まれた。間口5間・奥行き15間ほどの小さな京町家ではあったが、外観は昔の雰囲気が良く残されており上品な佇(たたず)まいを感じさせる町家であった。内部空間は、以前オフィスとして使用されていたということもあって、かなり改変されており、薄暗い空間が無機質に広がるだけであった。

 建物の調査を進めていく中で、そのような改変された状態であっても、「通り庭」の上部にあった「火袋」と呼ばれる吹き抜け空間は、比較的良好な状態で天井裏に残っていることが判明した。「うなぎの寝床」に暮らす京町衆の智恵として、採光・通風のために考え出された、奥に細長い吹き抜け空間である。

 私たちはこの「火袋」と呼ばれる吹き抜け空間に着目し、新しい改装プランを計画した。いわば現代の火袋ともいうべき機能を、京町家内部に計画し、そこから採り入れる光と風を内部空間全体に広がるような計画を行ったのである。四つの天窓から採り入れられる自然光は、ストリップ階段やガラス床の廊下、小さな吹き抜けといったそれぞれの装置を通じてそれぞれに、柔らかく室内に開放されていく。1階のリビング空間からは、ガラスの天井越しに、空が見える。

 日ごろ、自然を感じることの少ない都市居住環境にあって、空を感じるということは、ある意味、現代人が忘れてしまった大切な何かを思い出させてくれる、貴重な体験なのかもしれないと思えるプロジェクトであった。