祇園四条にある京町家

 深まる秋の京都。観光客で連日にぎわいをみせる東山・祇園町。そんな祇園町にある1件の京町家を、先日、再生する機会に恵まれた。四条花見小路を西に入った四条通南側に面するその京町家は、過去には、喫茶店やギャラリーに使用されていたということもあり、何回も改装が施され、もはや、その原型をとどめていなかった。改修設計に伴い、解体工事を進めてみると、柱やはりは抜き取られている部分も多数あり、建物は老朽化が進んでいた。そんな古くなった京町家に、ひとつひとつ丁寧に、柱を入れて、はりの補強を施しながらながら、新しい店舗へのリニューアル工事をすすめていった。

 こうして、完成したのが「京甘味処 月ヶ瀬 祇園店」。昭和元(1926)年の創業以来、86年間、糸寒天や丹波大納言といった素材にこだわりながら、あんみつやぜんざいをつくり続けている。奥に長い、「うなぎの寝床」に建つ、京町家独特の間取りを十分に生かしながら、明るく開放的な店舗空間となるよう、奥行きのあるデザイン設計をおこない、大黒柱の向こう側、もともと京町家の通り庭であった部分には、座敷席を計画している。

 天井には葭(よし)天井をあしらい、合計7ヵ所にもおよぶはり補強部分には、祇園お茶屋一力亭に使用されている伝統色、憲法色と紅殻色をアクセントに使用した色彩設計とした。石畳をイメージした床部分には、小さな坪庭をディスプレーとして演出し、あんどんのようなやわらかな光を放つペンダント照明をリズミカルに配置した。

 歴史ある京町家にあたらしい感性を吹き込む。次の時代にも愛される伝統美を伝えるために、きちんとした改修が必要であると改めて感じたリニューアルプロジェクトであった。