祈りを捧げたあの日

 旧薩摩藩邸跡にある同志社今出川キャンパスには、五つの重要文化財を含む多くの赤煉瓦(れんが)建築が現存する。明治17(1884)年に建設された彰栄館を最初として、次に建設されたのが、同志社礼拝堂である。明治19(1886)年竣工(しゅんこう)のこの礼拝堂は、通称「チャペル」と呼ばれ、同志社の歴史とキリスト教精神を象徴する建物として親しまれている。

 設計は先の彰栄館と同じく、当時、宣教師でもあったD・C・グリーン。鉄板葺(ぶ)き煉瓦造りのこのチャペルは、飾り気のない「アメリカン・ゴシック」スタイルの美しい建物である。あっさりとした、ゴシックデザインはプロテスタント系の礼拝堂にふさわしく簡素な意匠構成となっている。煉瓦積みの外壁は、「イギリス積」をアレンジした、長手積み3段、小口積み1段を繰り返すいわゆる「アメリカ積」で積まれている。先の彰栄館が長手積み4段であるのに比べて、強度的にも強い3段で組まれていることは個人的にも興味深い。

 中学時代の3年間、毎朝、賛美歌を歌いながら、聖書を一緒に読んだあの思い出は、今でも鮮明に覚えている。色とりどりの木製ステンドグラスからは、赤・橙(だいだい)・青・緑などの柔らかな光が差し込み、パイプオルガンの荘厳な音色と共に穏やかなひとときを過ごした。

  礼拝堂内部は、プロテスタントの教会にふさわしくシンプルな単身廊で構成され、露出された小屋組の部材が美しかった。建築の勉強をしてからは、この小屋組は「鋏(はさみ)小屋組」という洋風建築の技術の一種であることを知ることとなる。

 ともあれ、独特の甘酸っぱい香りのするチャペルの中で、祈りを捧(ささ)げたあの日の思い出は、今の私の人間形成に大きく役立っており、感謝すべき美しい思い出なのである。