風を奏でる京町家

 以前、京都市下京区東洞院仏光寺にある路地奥の町家を改装する機会に恵まれた。クライアントは中学・高校時代の旧友ということもあり、25年以上の長い付き合いである。石畳の残る幅1.3メートル程の小さな路地には、数件の町家が建ち並び、それなりの風情を醸し出す路地空間である。ただ、その内部空間に至っては、場当たり的な改装が施され、細切れにされた小さな部屋が狭さを感じさせると共に、裏庭にまで浴室が建てられているような息苦しい環境であった。

 三大随筆のひとつ「徒然草」の作者である兼好法師は、その第55段で次のように記している。「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑き比(ころ)わろき住居(すまひ)は、堪へがたき事なり」。本来、住まいというものは、風通しがよく、快適であるべきであると。

 周りを建物に囲まれた路地奥の町家を再生するにあたり、私たちは、風と光を効果的に取り込む工夫を施した。すべての建具を引き戸とすることにより、各室の一体化を図ると共に、裏庭を整備し路地からの風を取り込む。更に、通り庭を利用して、玄関上部とリビング空間の2カ所に吹き抜けを設け、風の通り道を計画したのである。効果的に配置されたガラス瓦は、トップライトとして室内空間に自然光を取り込む。

 高気密化された住宅に住み、空調に頼りながら生活する現代人のライフスタイルをもう一度見直し、自然をつれづれなるままに感じながら、快適に住まう工夫を考えてみてはどうだろうか。