流れづくりの流線美

 古来より淀川・鴨川の水源の地・水の神様として崇敬を集める、京都市左京区貴船神社。現在もなお、全国の料理業や調理業・水を取り扱う商売の人々から信仰を集めている。

 貴船神社の歴史は古く、その創建は今から約1600年前。仁徳天皇の第三皇子、第十八代・反正天皇(406年〜410年)の御代であると伝えられている。日本後紀には、平安初期の延暦15(796)年、東寺の造営の任に当たっていた藤原伊勢人の夢に貴船神社の神が現れ、対岸にある鞍馬山鞍馬寺を建立するよう託宣したと記されており、その当時すでに貴船の神は大きな影響を及ぼしていたものと考えられる。

 水の供給をつかさどる神、高龗神(たかおかみのかみ)を祀(まつ)るこの神社は、古来より祈雨の社としても信仰をされている。平安遷都後は、日照りや長雨がつづいた時に、また国家有事の際には国の重要な神社として必ず勅使が差し向けらることとなる。「雨乞(ご)い」には黒馬を、「雨止(や)み」には白馬又は赤馬をその都度献じ、祈念がこめられたのであるが、度重なる御祈願のため、時には生き馬に換えて馬形の板に色をつけた「板立馬」を奉納したようである。これが、現在の「絵馬」の原型であるといわれており、室町時代以降は馬以外にさまざまな動物が描かれるようになっていく。

 貴船神社の社殿。銅板葺(ふ)きが美しい本殿は、平安初期に成立したと考えられる神社本殿形式の一つである”流れづくり”。切妻造り・平入りに緩やかな反りを持つ独特の屋根をあわせた形態は、風格のある流線美を形成している。建築と万物の命の源である「水」の関係を考える良い機会に恵まれた。