技と心をつなぐ一枚板

 以前、東山区知恩院門前にほど近い「祇園えもん」という和食料理店を改装する機会に恵まれた。聞けば、27年前の創業以来、包丁一つでこだわりの寿司(すし)を握り続けてこられたご主人が、後継者であるご子息と一緒に新しい寿司海鮮料理店をリニューアルオープンしたいというのである。

 30坪弱の店内には、モミジを配した小さな坪庭も整備されており、四季折々の風情も楽しめる京都らしい雰囲気のある空間ではあった。しかしながら同時に、飾り気のない無難なデザイン構成であったため、どことなく印象の弱さを感じさせるスペースでもあった。

 ただ、長年、カウンターとして使用されていた長さ2間半(約4.5メートル)ほどもある一枚のヒノキ板は大切に使用され、毎日丁寧に手入れをされてきた。厚み3寸(約9センチ)ほどもあるその一枚板は、反りを生じることもなく、むしろ年を経るごとに美しくなっているようにすら感じられた。

 店舗コンセプトに基づき、さまざまなリニューアルプラン案が検討される中、このカウンターだけは残しておきたいと考えた。まるで一枚板が、初代から2代目へ受け継がれる大切な心のバトンのように感じられたからである。

 「ともに仕事をしていくなかで、師匠である父から受け継いだ技と心を大切に、素材と向き合い、感性の赴くままに、自分の料理を究めていきたい」と2代目、安喰一智氏。父親から受け継いだバトンに、更に磨きをかけて輝きを増してほしい。そんな願いをこめた空間創生プロジェクトであった。