糺の森の式年遷宮

 京都市左京区にある「糺(ただす)の森」は、下鴨神社賀茂御祖神社)のご神域に広がる森である。広さは約12万4000平方メートル(約3万6000坪)東京ドームの約3倍にも及び、平成6(1994)年にはユネスコ世界文化遺産にも登録されている。その歴史は古く太古の昔にさかのぼり、源氏物語枕草子といった多くの文学作品にも登場し、平安京遷都以前の原始の森が今なお残っている。

 「糺の森」にお祀(まつ)りされる下鴨神社には、国宝の東西本殿の他、50棟を超える建造物が重要文化財に指定されており、平安時代の姿を今に伝えている。昨年より、下鴨神社では21年に一度の式年遷宮が行われており、一昨日の3月20日には神様がご本殿から仮殿へお遷(うつ)りになる祭儀である「仮殿遷宮」が斎行されたところである。式年遷宮とは、定められた年限に社殿を新しくし、神様にお遷りいただく神社で最も重要な祭儀であり、今年は伊勢神宮(20年ごと)や出雲大社(60年ごと)においても式年遷宮が行われている。

 下鴨神社における式年遷宮の制度は、平安時代の天喜4(1056)年よりはじまり、途中、中世の戦乱などで遅滞することはあったものの、約1000年にわたり斎行され、今回で34回目を迎えることとなる。江戸時代まではご本殿以下全ての社殿を21年ごとに造り替えていたのであるが、現在は東西本殿をはじめ多くの社殿が、国宝・重要文化財に指定されているため、大修理を行うかたちとなっている。

 21年ごとに人から人へ受け継がれていく伝統と技術。自然の摂理として生物はみな親から子へ世代を重ね受け継がれ、私たちも常に新しい命を祖先、先人から引き継いでいる。太古の時代よりある糺の森にあって、「式年遷宮」もまたその命の流れのなかにあるのではないだろうか。